Touching the Depths of the Earth with One Note
(一音で地球の底まで行って帰ってくる)
[2019, U.S.A.] site-specific performance
六面の箏と5人のパフォーマーたちによる観客参加型のパフォーマンス作品。日米カルチュラル・トレード・ネットワーク(CTN)の委嘱を受け、日本にルーツを持つサンフランシスコ・ベイエリアの住民たちとの対話を経て、種の移動とディアスポラについて非・人間中心主義的な視点から考察する作品を創作し、サンフランシスコ国際芸術祭のメインプログラムとして発表した。会場となったフォート・メイソン・センターは元米軍基地であり、第二次世界大戦中はここからアジア各地に向けて軍艦が出航した。現在は国立保養地の一部となっており、9500万年前の地形を留める貴重な自然環境でもある。観客は、風や岩と共鳴する箏に導かれながら、会場の歴史的建築物や屋外を移動し、時にレクチャーや朗読、パフォーマンスに耳を傾け、時にサウンド・ワークショップの参加者となり、最後には自身の記憶の中の音を聴くことで、自らの音楽体験を作っていく。歴史学者や生物学者、植物学者の協力のもと、その土地の複層の時間を掘り起こし、そこに渡ってきた人々や植物の種、鳥たちの物語——もう聴くことができなくなったサンフランシスコの霧笛や、冒険家が太平洋を航海中に海上で聴いた音、一人の日系人の移住と強制収容の歴史、在来植物の種子たちの旅、そして北極の氷が溶けたことで地球の反対側に迷い込んでしまった渡り鳥の求愛の歌——が時代を超えて交差するような作品となった。



出演:Koa Weaver 佳奈(語り)、近藤愛助(パフォーマンス、美術)、土居由理子(朗読、歌)、日景晶子(箏)、樅山智子(語り、打楽器)
上演:2019年5月23日、25日、26日
会場:フォート・メイソン・センター(アメリカ、サンフランシスコ)
委嘱・主催:日米カルチュラル・トレード・ネットワーク(CTN)、サンフランシスコ国際芸術祭
Meirin Attunement Room(明倫調律室)
[2018, Japan] installation
自身を調律するための体験型インスタレーション作品。インドネシア、オーストラリア、および日本のアーティストたちが京都に集まり、音や楽器に焦点をあてた滞在制作を行うコラボレーション・プロジェクト「The Instrument Builders Project Kyoto: Circulating Echo」から委嘱を受けて発表した。中川真氏の著書『平安京 音の宇宙』よりインスピレーションを得て、調律された都市の中で——聴取を通して——自分が世界のどこにいるのかを知るような感覚を想像するための装置として創作した。雅楽奏者や絃の製造者らの協力のもと、京都在住の陰陽師と協働し、京都芸術センター茶室内の東西南北および中央のそれぞれの方角に、呼応する調子の音叉や神獣のシンボル、色や言葉などを置き、陰陽五行説に基づいた一つの音宇宙を構築した。東西南北に座った観客は、音叉から聞き取った音を自ら声にして空間に放つ。中央に寝転んだ観客の身体は、部屋と共鳴する琴の胴体となり、各方角から聞こえる音との関係の中で自らを調律しながら絃を奏でる。つまり、この部屋そのものが楽器となり、この部屋を演奏する観客の身体もまた楽器となる。『明倫調律室』を複数人で演奏するために、「柄杓を一回鳴らしたら奏者たちは一斉に方角を移動する」などいくつかの遊びのルールを設け、異なる奏者によるパフォーマンスを複数回行なった。



初演・会場:2018年9月16日 京都芸術センター
共同制作者: 樅山祥子、糺命、ヴキール・スヤディ、 ミスバッフ・デーン・ビロク、ケイトリン・フランツマン 協力: 伊藤えり(笙奏者)、株式会社 鳥羽屋、無鄰菴、 岡山コケの会、モアレ
委嘱:The Instrument Builders Project Kyoto: Circulating Echo(ザ・インストゥルメント・ビルダーズ・プロジェクト・キョウト-循環するエコー)
Conversations with Birds, Dead Birds, and Cracks in the Stone
(鳥たち、死んだ鳥たち、そして石に刻まれた罅との会話)
[2017, Croatia] site-specific performance
Perforacije Festivalの招聘により、クロアチアの詩人でダンス・ドラマトゥルクのミラ・パヴィチェビッチと共作した散歩パフォーマンス。クロアチアのドゥブロヴニクからザグレブ、そしてセルビアのノヴィサドを巡る2週間のレジデンシーを通して、ミラと私が互いに対してワークショップを重ね合い、「異なるリアリティを持つ二人の個人が、どのようにしたら本当に対話することができるのか」ということを、徹底的に、真摯に、そして親密であることにあくまでも忠実に、追求する実験を行った。それは、個人間の対話が、必然的に、戦争や震災などの共同体の体験や、未来の記憶、目に見える存在も見えない存在も巻き込ながら深化する中で、「ホーム」とは何なのかを一緒に考える旅であった。そのプロセスの最後に、ザグレブ市街の真ん中にひっそりと佇む公園で、音のワークショップを含む参加型のパフォーマンスを行い、二人の対話を公に開く場を設けた。観客たちの記憶をガイドに、公園の噴水やブランコ、木の切り株などが、時に神戸の井戸や、ノヴィサドの壊れた橋、ドゥブロヴニクの市場などに変容し、色々な次元の時空を共に発見するような体験となった。



初演・会場:2017年12月21日 Rokov perivoj公園
委嘱:Perforacije Festival
On This Side, a Spirit(こなた精霊)
[2017, Japan] concert music
二台ピアノのための「こなた精霊」は、今年5月に訪ねた愛媛県大三島の大山祇神社に伝わる一人角力(ひとりずもう)の調査をもとに作曲しました。一人角力は、稲の精霊と人間が相撲を取る神事で、精霊が勝つことによって、春には豊作が約束され、秋には収穫を感謝するというものです。古くから伝わる行事ですが、一時期途絶えていて、20年ほど前に地元の人たちによって復活されました。
「こなた精霊」では、二人のピアニストに、行司にも、力士にも、神様にもなりながら、遊んでもらいたいと考えました。大三島町には、一人角力とはまた別に、「すもとり節」という座興歌が伝わっています。「こなた精霊」では、神様が相撲でひとしきり遊んだ後、「すもとり節」を口ずさみながら神様のおうちに帰っていく様を想像しました。



Rite of Masago(真砂子ノ儀)
[2016, Japan] concert music
さいたま市の岩槻には、全国でも大変珍しい「古式土俵入り」という芸能が残っている。これは、相撲をとる前の土俵入りの行為のみを様式化した地域の子どもたちの祭りである。化粧まわしをつけた子どもたちが、金棒を突き鳴らし、拍子木を叩きながら、地域を行進し、振りのある動きで土俵に入り、掛け声とともに大地を踏みしめる。夏に子供たちの稽古を見学し、秋に「古式土俵入り」の本番を体験した。透き通った青空 のもと、彼岸花が咲き誇る神社で行なわれたその儀式は、あまりにも清らかで神々しく、あまりにも素朴で美しく、私は涙を流しながら、その音楽を聴いたのでした。岩槻の古式土俵入りから教わったことを少しでも多くの人と共有したいと思い、「真砂子ノ儀」を書きました。



初演:2016年4月2日、岩槻本丸公民館にて(さいたまトリエンナーレ)
チェロ:多井智紀 太棹三味線:田中悠美子 ピ アノ:野村誠 協力:観客のみなさん
CONVERSATIONS WITH MYSELVES: Recollecting the 10 years of Minori-Majorite Travel
(記憶との対話〜マイノリマジョリテ・トラベル、10年目の検証)
[2016, Japan] Film
樅山が主宰をつとめるマイノリマジョリテ・トラベルが、身体障害、精神障害、性同一性障害、セクシュアル・マイノリティ、元ホームレス、外国籍など様々なマイノリティ性を自覚するメンバーたちとともに、2005年から2006年にかけて実施した「東京境界線紀行」プロジェクトを、10年後の世界から振り返る検証映画。2016年3月渋谷アップリンクでのプレミア上映以降、全国各地で上映を重ね、それぞれの文脈に照らし合わせながら現在の日本社会における「障害」と「健常」の境界線を再考する対話を継続している。



監督=佐々木誠
制作総指揮=樅山智子
製作=マイノリマジョリテ・ト ラベル・クロニクル実行委員会/61分
Subli ng Karagatan: a Chant for the Sea Forest(海の森のスブリ)
[2015, Philippines] site-specific performance
環境破壊の危機にある海に向かって音楽を奉納する30分の儀式パフォーマンス。第33回アジア作曲家連盟フェスティバルの招聘を受け、レジデント・コンポーザーとしてフィリピンのバタンガス州に滞在し、地元の高校生たちや、地域の伝統芸能 “Subli” を継承する高齢者たち、環境活動家などと協働しながら創作した。世界各地から音楽祭のために集まった観客たちが演奏者となり、目の前の海に住む多様な生物になりきって声を重ねることで、沈黙のサンゴ礁の中であらゆる命が迷子にならないように祈りを捧げた。



楽器編成:太鼓、カスタネット、声
演奏:シナーラ・スブリ・ダンサーズ (Luisita M. Abante, Severino D. Cruzat, Beda M. Dimayuga, and Neri G. Manalo)/セント・ブリジット大学付属高校パフォーミング・アーツ・グループ「SBC-PAO Repertory Brigid」 (Jan Jilliene M. Alday, Rhainne Cshyra M. Dimatatac, Veronica Mae E. Lalusin, Drecz Alecz A. Maderazo, Wendhyl M. Manalo, Michelle C. Marqueses, Ma. Zshalia Eleni M. Muñoz, Ma. Gloria Isabelle N. Pechay, Carl Joshua B. Seno, and Angela Denise S. Viceral)/
アジア作曲家連盟フェスティバルのコンサートに来場した観客たち
初演・会場:2015年11月 ライヤ・ビーチ (サン・フアン、バタンガス、フィリピン)
委嘱:第33回アジア作曲家連盟フェスティバル「Likha-Likas: Reconfiguring Music, Nature, and Myth」
Where Little Foot Sleeps(リトルフットの墓)
[2015, Japan] concert music
東京、両国アートフェスティバルの委嘱で二台のプリペアド・ピアノのために作曲。2015年7月に両国門天ホールで井上郷子氏とジル・リチャーズ氏によって初演された。狩られる存在であった人類の祖先たちの生活と、南アフリカ先住民サンの狩猟採集にまつわる儀礼と、日本は岩手・大槌の鹿子踊の哲学を巡って、ヒトと動物の関係について考察した楽曲。
(以下、プログラムノートより一部抜粋)
昨年、南アフリカUnyazi電子音楽祭の招聘でヨハネスブルクに滞在した際に、人類の祖先たちが多数発掘されている化石遺跡群「人類のゆりかご」で、リトルフットに出会いました。今年4月に発表されたばかりの新たな測定結果によると、リトルフットは370万年前の猿人の成人女性で、発見されているヒト科動物では最古の化石となります。水の音が静かに響く暗い洞窟の中、高さ20mの垂直の穴の底で見つかったリトルフット。もしかしたら、樹冠に覆われた森の奥で捕食動物から逃げているうちに洞窟に落ちてしまい、動けないまま亡くなっていったのかもしれません。耳の後ろにきゅっと丸めた小さな手をあてて眠る彼女の表情は、泣いているようにも、怒っているようにも、笑っているようにも見えました。あるいは、370万年後の未来の記憶が走馬灯のように駆け巡り、サン族の治療歌を聴いてエランドの精霊と対話し、動物と人間が境界線上で遊ぶ鹿子踊の夢をみているのでしょうか。

楽器編成:プリペアド・ピアノ二台
演奏:井上郷子&ジル・リチャーズ
初演・会場:2015年7月 両国門天ホール(東京)
委嘱:第1回 両国アートフェスティバル2015
Searching for the Sound of Taji(田治の音を探ろう)
[2014, Japan] site-specific performance, sound walk concert
福井県福井市の田治地域協議会から委嘱をうけ、米どころとして知られる東郷田治地区に一ヶ月間滞在し、子どもから高齢者までの幅広い年齢層の地域住民とともにワークショップ「田治の音を作ろう」を開催。植物学者や考古学者と一緒に地域の特性を調査し、忘れられていた土地の伝説や風習を掘り起こし、地元の竹で子どもたちと楽器を創った。田治地域協議会主催「花と食と音のアートフェア」にて、地域全体を舞台として住民が総動員で演奏を繰り広げる散歩型コンサート「田治の音を探ろう」を創作演出。公演当日、観客は、田んぼや周囲の山々、森の泉や古い神社、寺や庭を巡って集落を散策した。太鼓、吹奏楽、雅楽など、その土地に伝わる音、そしてその周りの環境の音に耳を澄ませながら土地の歴史を紐解いてゆく、サイト・スペシフィックな音楽パフォーマンスとなった。

楽器編成:太鼓、竹創作楽器、ピッコロ、ユーフォニウム、ホルン、フリューゲルホルン、 マリンバ、半鐘、詩吟、テープ、雅楽、ソプラノ・サックス、オカリナ、女声コーラス
演奏・出演:福井市東郷田治地域の住民、ふくいWind Brass、三国シンフォニックウィンズ、福井県立大学水口研究室ほか。
初演・会場:福井市栃泉町、深見町(福井)
委嘱:田治地域協議会
When Humans Go Extinct(人類が絶滅するころに)
[2014, Republic of South Africa] concert music, multi-media performance
[New Music南アフリカの招聘でUnyazi2014電子音楽祭にレジデント・コンポーザーとして参加し、ヨハネスブルグ在住のアーティスト、ジル・リチャーズ(ピアニスト)、ジョアオ・オレキア(サウンド・アーティスト)、ヤーヘン・ミークル(映像作家)との恊働プロジェクトを企画した。ウィットウォーターズランド大学のオリジンズ・センター博物館、ロック・アート研究所、そして地球物理学部の協力のもと、考古学者や地層学者らとともに人類の祖先の化石遺跡群である洞窟「人類のゆりかご」を訪ね、最先端の研究について教えてもらい、先史時代の楽器ロック・ゴングを演奏。それと平行して、ヨハネスブルグ周辺で鉱山開発の公害に苦しむコミュニティを訪ねて住民や活動家らとの意見交換を行い、坑道が張り巡る地中から聴こえてくる音についての聞き込みを行った。鉱山にまつわる踊りや音楽について調べ、各地で地震センサーを用いて地中の振動を録音。これらのリサーチをもとにピアノとライブ・エレクトロニクスと映像のためのマルチメディア・パフォーマンス作品「When Humans Go Extinct(人類が絶滅するころに)」を作曲し、参加アーティストによる演奏で発表した。人類発祥の頃の洞窟と近代の遺産である鉱山を巡って、人々と大地との関係について考察し、私たちはどこから来たのか、私たちはどこに来たのか、私たちはどこに行くのか、という問いかけをした。

楽器編成:ピアノ、ライブ・エレクトロニクス、映像プロジェクション
演奏:ジル・リチャーズ(ピアノ)、ジャオ・オレキア(コンピューター)、ヤーヘン・ミークル(映像)
会場:ウィットウォーターズランド大学(ヨハネスブルグ、南アフリカ)
初演・会場:2014年9月 ウィットウォーターズランド大学(ヨハネスブルグ、南アフリカ)
委嘱:Unyazi2014電子音楽祭
Calling from a Changtang Steppe(チャンタンの高原から)ほか
[2014, India] site-specific performance, sound installation
Earth Art Project 2014芸術祭の招聘で、標高3700メートルから5000メートルのヒマラヤの高地に滞在し、2つの公立学校にて生徒や先生たちとの恊働プロジェクトを企画した。温暖化の影響や無計画な開発によって環境が急激に変化しているラダック地方において、遊牧民や農民の子供たちと一緒に大地から受け取っている様々なサインをドキュメントし、音楽に翻訳するワークショップを実施した。山から返ってくる木霊や強風によって演奏されるボトルのオルガンなどを用いて、環境要素を活かしたパフォーマンス作品を創り、子供たちの演奏で発表した。また、それぞれの学校にて、観客がヘッドフォンで鑑賞するサウンド・インスタレーション作品を発表した。

楽器編成:創作楽器、太鼓、ベル、チベットギター、声、ほか